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早過ぎる解体
カテゴリー:各種情報 2012年12月26日 記事番号:897
不動産鑑定士という職業柄、
普段、普通に街歩きをする時にも、
常に、人の動きや流れを目で追い、
建物の構造、築年数や維持管理の程度を査定しています。
人の動きは繁華性や収益性を判断する材料となるので重要です。
建物の状態も色々な事例を注意してみておくことで査定能力が高まると思っています。
ある日のこと、
不思議な場面に出くわしました。
写真に示す建物なんですが、解体作業中でした。
気になったので近くによって良く見てみたらまだ新しいじゃないですか。
築 年 :10年から15年
用 途 :居宅
構 造 :鉄骨鉄筋コンクリート造スレート葺二階建
延床面積:150㎡から200㎡
外装内装:高位な品等の材質を使用している
どうみても経済的残存耐用年数は30年以上ある建物です。
「こんな立派な建物をどうして壊しちゃうの?」
素朴な疑問が湧きますよね、普通。
もちろん答えは知りません。
しかし不動産のプロの方ならすぐに思いつくことがあります。
「心理的瑕疵」による民法570条適用物件
こうした物件では、いわゆる事故物件と呼ばれるものの可能性を考えるのです。
事故物件、すなわち居住者等が建物内で「自殺、他殺」により亡くなった物件です。
通常、不動産を買おうとする人は、その不動産の前所有者が自殺や他殺で亡くなったって聞いたら嫌な感じになりますよね。それが心理的瑕疵がある、ということなんです。
宅建業法の重要事項説明では、必ずそうした事故物件の事実は売主から聴取し、さらに裏を取るために近所の方々に聞き込みをするというのが普通です。特に怪しいと思ったものに関しては、それをしないと、宅建業者でなくても、不動産鑑定士であっても「重過失」に問われることになります。
ですから「早過ぎる解体」のあった建物が存していた事実を知ったなら(閉鎖登記簿等で容易に調査可能です)、事情聴取を行う必要があり、それをしなければ宅建業者も不動産鑑定業者も過失責任を免れないことになるのです。
では素朴な疑問があります。
そうした事故物件は「永遠に重い十字架を背負い続けなければならないか」という点であり、時効ってのはないのかってことです。
これに関しては幾つかの判例が具体的な年数を判示しています。
(1)事故死の場合
事故は心理的瑕疵に当たらない(東京地判 平23・5・25)とされています。
(2)自殺の場合
まず、自殺した部屋を含む建物が現に存している場合は、賃貸建物では最低でも10年は価値が毀損している(東京地判 平23・5・25)としておりますが、売買の場合はその事実を開示してしまうと買い手がいないので、事実上は建物解体をしないと瑕疵は除去できないと考えられています。解体して更地化した場合、2年経てば空間的瑕疵は免れるという判例(大阪地裁 平11,2.18)もあり、2年から4年程度で瑕疵担保責任から免れるようになる。
(3)他殺の場合
この場合は大変です。殺人事件が起きて建物を取り壊した更地についても、8年経ってもなお心理的嫌悪は存在するという判例(大阪高裁 平18・12・19)が出ており、特に事件の重大性によって嫌悪の続く期間は長短があると判示されてます。
このように「早過ぎる解体」の憂き目にあった建物については、その理由を十分に調査しないと大変です。
なお、写真に示した建物で何があったのかは存じません。
「早すぎる解体」の憂き目にあった建物というだけのことですので、その旨ご了承ください。