面白不動産の記事一覧
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高ければ高い?
カテゴリー:面白不動産 2013年1月12日 記事番号:902
不動産の価格というものは「価格の三面性」を反映して定まると考えられています。すなわち①原価性、②市場性、③収益性の三面性です。
不動産に限らず、一般に財の価格は以下の観点で定まると考えられています。
①その財を取得、製造、再調達するために要する費用がどれほどか(原価性)。
②市場においてどれほどの価格で取引されるものか(市場性)。
③その財によりどれほどの効用(収益)を得ることができるか(収益性)。
代替性がある財であるならば、本来的にはこれらは同一の経済価値に収れんすると考えられますが、希少性があるものではこの三面性のうちで時に重視される観点に軽重つく場合があります。
例えば田園調布の邸宅などは「収益性」の観点ではとても説明が出来ない価格で取引が成立しています。買いたい人が「収益性」を重視していないからです。
通常、居住用の不動産は「居住性、利便性、快適性、安全性」などが重視されます。例えば利便性では駅や商店街に近い、快適性では眺望や日照・通風・乾湿に優れているとかいった点が重視されます。だからタワーマンション等では上層階ほど快適性が高いので価格が高くなる傾向があります。
すなわち「高層階ほど価格が高い」のがタワーマンションの特徴です。
それは分かります。
ではこの写真の建物はどうでしょう?
ここでは面白い不動産を紹介したいと思います。
写真はイタリア・トスカーナ地方にあるサンジミニャーノという町です。
この町には不思議な「塔」が幾つもあるのです。
この町には幾つも高い塔がありますが、その中でも最も高い塔がこのトーレ・グロッサ塔なんです。
高さはなんと52m!
およそ18-19階建てのマンションの高さです。
この塔はなんのために建設されたと思いますか?
まずは塔の中に入ってみましょう。
全ての塔は、このように壁に沿ってらせん状の階段を設けています。
つまり塔内の空間は「塔の上に上るための階段空間」だけなんです!!
通常、高層建築は何かの建物利用を目的として建設しますよね。
しかしイタリアではこれらの塔は「高い所に上るため」のみを目的として建設されているのです!!
それは何を意味するか????
この写真はサンジミニャーノの街で一番高い塔であるトーレ・グロッサ塔の頂上から見たものです。一番高い塔ですから、「街で一番高い位置」に上っているんですよね。他の塔を「全て見下ろせる」んです。
もうお分かりになりましたよね。
「自分が一番になれば、他を見下ろせるから」が、こうした高層塔建設の唯一の動機なんです。すなわち
「高さが高い = ステータスが高い」
ということなんですよ。
こうなるとこの塔の価格を決める要因は何でしょう。
収益性は無関係ですよね。今は多少入場料は取ってますが、日々の修繕費にはとても満たない額ですから収益性は皆無です。
市場性は通常は居住用ならば上記のように「居住性や快適性」等が重視されますが、建物自体、屋上というか頂上からの眺望を眺める以外の機能がありませんから、市場性も希薄な気がします。
だとすれば、この建物価格は「原価性」すなわち再建築するために要する費用という観点から市場参加者に把握されるものと考えられます。
このように一口に不動産の価格と言っても、用途によって価格三面性が均等にひょうかされるわけではなく、用途によってはある特定の面だけが重視されて価格が決まると言ったものがあるんですね。
もちろん、東京タワーやスカイツリーも一緒です。
間違いなく重視されるのは「原価性」だけでしょう(笑)
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「合わせる」のは文化の違い?
それとも、、、カテゴリー:面白不動産 2012年12月23日 記事番号:896
(写真はノルウェー トロンハイム)
欧州を歩いていて、素朴に思ったのは「石造りだから何百年も持つので、歴史的建造物としての街並みが何百年も続くから、建物建築規制が必要なんだろう」と。
実際、欧州はどこも殆どが石造りの建物です。
農村地区にレンガ造りの建物は見られますが、基本は石造りです。
しかし実は石造りだけではないんですね。
こちらは北欧ノルウェーの真ん中位置にあるトロンハイム市の
普通商業地域にある商店街です。
ここでは豊富な森林を抱えるノルウェーならではの木造建築が主流です。
見て頂けるとお分かりいただけますでしょう。
①外壁色の統一性
②軒高さの統一性
③建物高さの統一性
④壁面後退位置の統一性。
お見事です。
これは文化なんだと思います。
街を構成する一員として、「一員の証しとして建物を街に合わせる」という
純粋な想いが垣間見られます。
どんな地方都市に行ってもその文化が明らかに見て取れる。
これは「御上の規制」ではなく、文化として自主規制または「他人をも守らせる」という強い文化的意志を感じます。
少し日本の事例を見返してみましょう。
こちらは三浦半島の南端、三崎口の商店街の一角です。
三崎町は日本有数の漁港として賑わって、その賑わいを支える商業が栄え、蔵の街としても有名です。
この三崎口商店街の街並みは蔵を含めた街並みが形成されていたはずですが、今では相互の建物間のバランスを失っていることが分かります。
現在、この地域の都市計画は用途地域が商業地域、建ぺい率80%、容積率400%の指定がなされています。
需要さえあればいつでも10階建てのマンションが商店街の店舗に置き換わります。
トロンハイムの商店街では、おそらく最有効使用は標準的使用と同じ店舗付住宅だと判断されますが、三崎口商店街ではどうでしょう。
こうして街並みは壊れていくんだと思います。
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この島は幾ら?
カテゴリー:面白不動産 2012年12月22日 記事番号:895
(南沙諸島のとある島 シンガポール航路上にて撮影)
南シナ海に浮かぶサンゴ礁の島、この島の値段は幾らなんでしょう?
不動産研究所の不動産鑑定士が東京都に依頼されて尖閣諸島の鑑定評価に行ったことは皆さんの記憶に新しいことと思います。
そこで皆さんに伺いたいのですが、島の価格はどのように決めるかご存知でしょうか?
この場合、不動産の種別および類型は「更地」ということになります。更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいいます。
不動産鑑定評価基準では「更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。」とあります。
だとすれば取引事例と純収益(賃料収入等)を求める必要がありますね。
まず取引事例ですが、同一需給圏(代替競争不動産の存する圏域)を決める必要があります。
その場合、典型的な市場参加者を見極めることが重要であり、それは後述の最有効使用のによって異なります。
リゾート施設ならホテル経営者なので、同一需給圏は赤道周りの「南の島」が代替競争不動産になりますし、
船溜まりなら政府機関で、その場合の代替競争不動産は緯度に無関係な世界中の離れ小島になるでしょう。
同一需給圏が決まれば、その同一需給圏内で直近に取引された売買事例を調査して、事情補正、時点修正、要因比較等を行って価格を決めることになります。
収益価格を求める場合、決めなければならないのが対象不動産の最有効使用です。すなわち「対象不動産を使った合理的かつ合法的な最高最善の使用方法を判断する必要があります。
用途としてはサンゴ礁の島ですからリゾート施設の建設による利用が一番でしょう。だとすれば建造する必要のある施設としては以下のようなものが必要ですね。
①リゾート客や各種物資を乗り下ろしできる港湾施設
②上水道と下水処理施設
③発電設備、変電・配電設備
④宿泊施設および遊戯施設
これらの設備を建設し、運営を開始した時に得られる永続的な純収益(=総収益―総費用)を求めます。この純収益から建物帰属純収益(投下資本に元利逓増償還率を乗じて得た額)を控除して、土地に帰属する純収益を求めます。
求めた土地帰属純収益を還元利回りで資本還元して収益価格を求めます。
この場合の還元利回りは収益獲得の不確実性によって変わります。容易に永続的な収益が得られるなら利回りは低く、変動が大きいと想定される場合には利回りは高くなります。
不動産鑑定評価で最も重要なのは最有効使用の判定です。
他にも漁船の「船溜まり」でも良いかもしれませんね。
その場合は港湾施設と給油施設と、付随する上下水道と発電設備があればよいので、投下資本は少なくて済みます。収益は設備利用料と給油・給水料金収入と言うところでしょうか。こちらは安定的な収入は見込めるため利回りは低めでしょうね。
しかし経営規模は小さく、リゾート施設に比べて投下資本は3桁小さく、収益も3桁小さいでしょう。
純収益はリゾート施設が大きいでしょうが利回りも大きくなります。船溜まりは純収益は小さいですが利回りも小さいでしょう。どちらが収益価格が高くなるか、収益価格の高い方が最有効使用という事になります。
なお、カジノを作れば収益力は飛躍的に向上します。その場合「合法性」で実現性があるか検討する必要があります。実現性のない使用方法は適用できません。
このように、どんな不動産でも不動産鑑定評価基準に則った手法を適用することで、鑑定評価額を求めることができるのです。重要なのは「最有効使用」の判定と、「実証的なデータの収集・選択」なのです。
なお、今回の事例ではサンゴ礁の島を選びましたが、地質調査をしないと、本当に堅固建物が建てられるのかが分かりません。基礎を打てないような地盤だとリゾート施設建設に合理性がないので、そもそも成り立ちません。先日の尖閣諸島の調査でも、本当は地質調査が不可欠でしたが、上陸できなかったので、その点に関しては「想定」でしか評価できないことになってしまいました。
また一部報道で「借地料を資本還元して求めた価格」というのを尖閣諸島の価格として出した方がいましたが、それは「現状を所与とする」という極めて限定的な価格です。おそらく法的に自由な使用が認められないというのでしょうから、そうした場合は正常価格ではなくて「特定価格」ということになってしまいます。法律の制限で最有効使用を実現できない場合の経済価値という事になります。
※比準価格とは「多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行
い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正
を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求
められた価格を比較考量し、これによって求めた価格」を言う。
※土地残余法とは、建物等の価格を収益還元法以外の手法によって
求めることができる場合に、敷地と建物等からなる不動産について
敷地に帰属する純収益から敷地の収益価格を求める方法を言う。
収益価格とは対象不動産が将来生み出すであろうと期待される
純収益の現在価値の総和を求めることにより求めた価格」を言う。
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ここまで揃うと大したものです
カテゴリー:面白不動産 2012年12月21日 記事番号:894
(写真はベルギー ブルージュ)
欧州では、都会だけでなく、地方都市でも建物に対する厳格な景観制限がなされているようです。もちろんその多くは「建物が連担する地区」の話であり、大抵は商業地です。
ブルージュは「北のベニス」と呼ばれる風光明媚な観光都市です。写真は商店街の一角。目抜き通りではなく、少し住宅地に近い地区にある街路を撮影したものです。
これらの建物を見て頂くと以下のような制限があることがわかります。
①高さは二階建に屋根裏が取れる程度の12m以下
②軒高さ8mに合わせる。
③構造は石造または鉄骨造とする。
④色は白、ベージュ、赤紫、またはそれに類似する色とする。
⑤街路面の1階は店舗とし、ショーウィンドを設置する。
おそらく都市計画法等の制限としてここまで決まっているはずです。
日本でもしここまで決めたらどうなるでしょう。
制限するのは景観法に基づく景観協議会の決定、都市計画法に基づくまちづくり協議会の決定となるでしょうが、協議会決定は「制定と改定は全員の合意」が必要です。上記のような合意が日本でも取れると良いのですが、さすがに「全員の合意」というのは難しいでしょうね。日本では「反対者を除いた賛成者による協議会の結成」がなされ、反対した家は協議会の制限をうけません。すると「一軒だけ」けばけばしい家や、にょきっと頭を出した高さの家が街の中に出来上がることになります。
本当は災害で滅失した後の街づくりで、こうした協議会の制限を設けると、街並みがそろって綺麗な町が出来上がるものなんですが、残念ながらそうした文化は日本にはありません。実は神戸でもそうした話は出ましたが、「景観なんて二の次」になってしまいました。
また用途制限にしても、例えば墨田区両国の馬車通りでは地区計画で「馬車通りに面した建物の1階は店舗とすること」という定めがありますが、無視してマンションを建てている業者も多くみられます。罰則がないと無視される、それが日本の現実です。
なお、こうした景観の優れた街づくりをすると、その地区全体の資産価値が高まることになります。特に商業地等では回遊性や視認性が高まることで集客力が向上し、収益価格が上昇します。銀座や横浜の伊勢佐木長者町の街づくりに関する地区計画がそうした制限を与え、そしてそれを全員で遵守することで、整備された街並みが出来上がっているのです。
「景観なんて二の次」にしたおかげで、結局機会を失ってしまう。勿体ない話だと思います。
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残すのは皮一枚だけ
カテゴリー:面白不動産 2012年12月20日 記事番号:893
(写真は英国 ロンドン)
欧州の街を歩いてわかるのは、「どの街も街並みをとても大切にしている」という事です。
何百年も前の石造りの建物の街並みが大切にそのままの形で残されている、
そんな風に見えます。
しかし、実際にそんな事が本当に可能なのでしょうか。
人は文明進化とともに生活スタイルを変化させています。
例えばエアコン、
いつまでもマントルピースの暖だけで冬を過ごせるわけもなく、
毎冬ごとに大量の石炭を燃料用にオフィスに運び込むことも現実的でない、
ロンドンの街を歩いていてその回答を見つけました。この写真の右側に工事の足場を掛けている建物があります。
「大規模改修工事でもしているのか」と一見見えます。
しかし実際に現場に行ってみると異様な光景が見られます。
①街路面側の壁を「皮一枚」だけ残して、建物はすべて取り壊す。
工事中は壁はつっかえ棒で立てておくだけ。
②建物は完全に新たな建物として建替えるが、幅と高さは「街路側外壁」
をはみ出さない様な寸法上の制約のもとに設計される。
ロンドン市内では「つっかえ棒で外壁を支えて工事している場面に幾つも出くわしました。写真に残してこなかったのが残念です。
このように「景観上」の外観は残して、建物自体は自由に建て替えることができる、という合意が前提として街づくりが進んできたという事なんですね。
鑑定評価をする上では、「建替え更地価格」の中に制約事項として建物高さや幅だけでなく、用途的な制約も当然加わることになります。すなわち間取りは窓で決まりますので、外観上の窓の位置や大きさによって、おのずと用途が制限されてしまうことになります。
ただ、欧州の方はおおらかです。前の用途が何であれ、店舗や住居やオフィスへと用途変更されて入れ替わります。外観で用途が決まらない。
こうした点は大変興味深いものがあります。
日本では外観でマンションかオフィスか店舗かが決まってしまいますが、欧州ではそんなことは一切ないのです。これも文化の違いでしょうね。最有効使用というのは実際には文化に依存するものなんですね。
もちろん横浜や神戸等でいくつか見られる「重要文化財指定建物」内にしゃれたレストランやブティックが入っている、といった例がありますが、さすがにオフィスや住居にはなってませんよね~
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隣の建物に寄りかかられてしまった場合
カテゴリー:面白不動産 2012年12月19日 記事番号:891
嘘のような光景ですが、実在する建物です。
これらの建物は各々が独立した建物なのですが、
さて、
この右から二番目の建物の鑑定評価を依頼された場合、
どのように考えればよいと思いますか?
現況、右から三番目のHOTELが対象不動産に寄りかかってます。
もちろん明らかに越境もしています。
だとすると対象不動産を建て直したいと考えた場合、
敷地境界ギリギリに建物建築が出来ないという状況です。通常、隣地からの越境がある場合、裁判所はよほどのことがない限り「撤去命令」までは出してくれないと考えるべきです。もちろん「倒壊家屋」なら話は別ですが、原状で用法に支障なく利用されている建築物や造作物は難しいので、通常は念書をとって「建替えるときは越境を解消します」でおしまいということになります。
ちなみに欧州では数百年も建替え無し(笑)で住み続けられてしまいますので、実態的にはこの傾いたホテルはそのまま永続的に存在することになると考える必要があります。
ということで鑑定評価の際には、隣接建物が傾いた状態を所与としての最有効使用建物建設を考えねばなりません。越境敷地分は建ぺい率や容積率対象にもなりません(実効的に占有できていない)ので、その敷地部分はないものとした設計を施す必要があるので、減価して鑑定評価額を決定することになります。
(オランダ アムステルダム)