冠水リスクの評価について
カテゴリー:市場分析 2019年10月14日
では平瀬川がどうして氾濫したか。
当時は多摩川が氾濫寸前まで水位が上昇していた。
多摩川の土手の標高と平瀬川の土手の標高のどちらが高いか、そこが問題となる。そこで多摩川を始点として対象地まで断面図を引いてみた。するとやはり予想通りの状況になっていることが判る。
始点は多摩川の河川敷の位置を取った。多摩川の一番深い部分(通常、水が流れている地点)は標高7.0m程度である。河川敷はそれより3mほど高い位置になるので、通常の雨では河川敷が冠水することはない。
しかし今回の豪雨で多摩川の堤防の際まで水位が上がっていた。堤防の高さは図に示すように16.4mである。ここまで水位が上ったら「多摩川が氾濫」ということになったであろう。堤防の手前で一段土盛りがあり、この高さが13m程度になっている。この土盛りで通常は水が止められる。堤防は最後の砦である。
今回の豪雨の際には堤防まで水が来ていた。つまり土盛りまで冠水していたので、その時の水位は13mを超えていた。これに対して、多摩川に流入する平瀬川の堤防は13m高に過ぎない。多摩川の堤防まで水が来たら、堤防高の低い支流である平瀬川が先に溢れるのは当然である。
平瀬川の堤防高は標高13mに過ぎない。つまり多摩川の水が堤防に達するまで水位が上がれば、平瀬川の堤防高を超えることになる。多摩川の堤防高は16m以上あるので多摩川の水は溢れないが、多摩川に流入する支流が先に溢れるのである。
こうした事象は考えていれば当たり前である。
治水に関する土木計画で、本流の堤防高を嵩上げしたら、支流の堤防も同じだけ嵩上げしなければ意味がないのである。
今回の豪雨において、地方では堤防決壊が生じたが、首都圏では幸いな事に堤防決壊までは生じなかった。しかし溝ノ口周辺および対岸の二子玉川地区での冠水は、このような支流があふれることで生じた可能性が高いと推察される。
不動産鑑定評価ではおそらくこの地域の価格を減価することはないだろうと思われる。不動産鑑定評価は「市場参加者の視点」を一番に重視するので、おそらく1-2年も経てば忘れられてしまうような冠水事象は価格形成要因にはならない。
しかし専門職業家は「リスクを指摘すること」を求められる職業である。このため、常に河川の氾濫リスクについては、ハザードマップだけではなく、このような標高によるピンポイントのリスク指摘まで行うことが求められていると考える。