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不動産鑑定士の役割について(1)

カテゴリー:業務紹介  2014年7月31日 

全く知らない人に不動産鑑定士という資格を説明するのは難しいものです。

例えば収益不動産を持たれている人や、大きな土地を相続された方などは、不動産鑑定士を御存じなくても、ちょっと説明すれば理解して頂けるのですが、普通の人に対して説明するのは難しいものです。


そこで今回は具体事例を交えて不動産鑑定士の役割を御説明したいと思います。


 ※先に注意しますが、いわゆる法的役割や公的役割ではなくて、

  もっと身近な事象に対する役割を説明するものです。


先日、私の友人からこんな御相談を受けました。

 ・父親が自身で経営している焼肉屋さんを売りたいと言っている。

 ・買った時のローンが残っているので、残金以上の金額で売りたい。

 ・不動産屋さんに売りに出して貰ったけど全然売れなくて困っている。

 ・どうしたらいいでしょうか。


詳しく聞きますと、こんな内容でした。

 ・千葉県の某市の国道沿いの店舗で土地は200坪くらいある。

 ・駐車場は10台くらいしか入らない。席数は60席くらい入る。

 ・建物は築40年の木造二階建。一階は店舗、二階は二世帯住宅。

 ・最寄り駅から5kmほどの距離があり、アクセスは自家用車かバス。

 ・国道は車通りが多く、隣の市には大規模な公務員研修所があって

  送迎バスを出せばかなりの集客が見込める。


そこで不動産鑑定士は考えます。

何を考えるかと言うと「最有効使用」を考えるんです。


すなわち、「対象不動産が最大の効用を得られ使用方法は何か」を考えるのが不動産鑑定士の一番の使命であり、期待される役割なんです。

ここで重要なのは「最大の効用」を享受するのは「対象不動産の所有者」です。売買を前提とした場合は「買った人の効用」であり、「売る人が考える効用」ではないと言う事なんです。つまり、「私はこの不動産にはコレだけの価値があると思うんだけど」と幾ら売手が考えても、買手がその効用を認めなければ意味が無いのです。


そして更に重要なのは「典型的な需要者」を判断することです。

誰が買うかで用途が変わります。

誰が買うかで価格が変わります。


ここを間違えると鑑定評価自体が意味の無い机上の空論になるわけです。そのために不動産鑑定士は、対象不動産が存する地域の市場分析を行い、対象不動産の個別性を十分に把握した上で市場における対象不動産の競争力の程度を判定し、その競争力に応じた価値判断を市場に成り代わって行うのです。それが鑑定評価なのです。


では具体的な事例に沿って説明いたしましょう。


今回の対象不動産は木造二階建店舗・住宅およびその敷地です。

そのため最有効使用の判定に当たっては三通りの観点から考える必要があります。すなわち①現況のまま使用を継続する場合、②用途を変更し、必要に応じて改造を行った上で現行建物使用を継続する場合、③建物を取り壊して更地にする場合、の三通りです。

最有効使用の判定は、「対象不動産の効用を最大限に発揮できる使用法」の判定であり、それは言い換えれば「対象不動産使用に対して一番高い経済価値を認めることが出来る使用方法」であり、つまりは「一番高い価格で買う人が想定する用途」ということであり、「典型的な需要家が買ってもいいと思う価格」なのです。


まず簡単な方から考えましょう。


(1)建物を取り壊して更地とする場合。

焼肉屋としての設備を廃棄し、二世帯住宅の居住設備も全て廃棄し、更地としての新たな利用を前提としたものになります。新たにコンビニを建てたり、アパートや戸建分譲だって構いません。

しかしそうした場合は対象不動産の個別性は土地のみになりますので、近隣周辺地域の更地が全て代替競争不動産になるわけです。そうなれば客観的に近隣周辺地域の更地取引価格の範囲内でしか価値判断されないことになるわけです。


更地の場合の典型的な需要者は、国道沿いの店舗用地を需要する事業者だと考えられます。なぜなら戸建住宅なら国道沿いが必要ないので、一本中に入った土地でもっと安く手に入れたいと思うものです。国道沿いの土地を需要するのは、国道を走る車の客を誘引しようとする店舗事業者です。

そうした需要者は国道沿いに広く検討しますので、代替競争不動産は国道沿いの更地となります。


この辺りは国道沿いの角地の店舗適地が近々に取引されており、取引価格は34,000円/坪ほどでした。住宅地では更に低い20,000円/坪台の価額でしたので、対象不動産土地の地域性や個別性を加味して、更地価格を50,000円/坪と査定しました。

土地面積は200坪ほどでしたので、更地価格は1,000万円ほどと査定されました。実際の売値は現行建物の解体費用が掛かりますので、この取引価格から解体費用を控除した価額が査定価格になります。



(2)現行建物の継続使用する場合
この場合の需要者は焼肉屋を居抜きで使用して、焼肉屋を継続して営業したいと考える事業者です。でも事業者と言っても色々考えられます。ここは対象不動産建物の個別性を前提として、もう少し具体的に考えましょう。


対象不動産は築40年の木造建物です。

現在の建築基準法の耐震基準が出来たのが32年前ですので、いわゆる旧耐震基準建物です。大地震が来た時の崩壊に耐えられるかどうか不明瞭です。大手焼肉チェーンはそうした地震リスクのある建物は使いません。しかも駐車場が10台ほどしか入らない敷地面積では集客力が小さいために、魅力が低いと判断しますので、大手チェーンは需要家になりえません。


では誰が需要家になるでしょうか。

考えられるのは個人事業主として、初めて焼肉店主として独立開業をもくろむ若手事業者です。彼らは自己資金が豊富では有りませんが政策金融公庫から創業融資を受けることができますので、開業費用として自己資金+融資を受けて3,000万円程度の創業資金を前提として事業計画を立て、開業のための取得店舗を需要します。

この創業事業者は初期費用を最小化する必要があるので、居抜き物件の活用を考えるのであって、創業資金で入手可能で、最小人数で稼動できる範囲での設備・規模の物件を需要します。


次にそうした事業者が幾らまで出せるかを考えます。

当該事業者として想定されるのは、焼肉チェーン店等の店長であり、現在の年収(給与収入)は、現在の飲食業界の給与水準から考えれば400万円~500万円程度と推察されます。この給与年収から住居費を支払っているわけですから、住居付店舗ならばその分が少なくても対応できると推察されます。


まず対象不動産で期待される収益を査定します。

仮定する条件は以下の通り。

 

 ・売上げは週末3日間を主と考え、平日は収益向上努力マージンとする。

 ・駐車台数10台で平均3人×単価3,000円で2.0回転/日とする。

 ・週末を4週/月、店主給与を除く原価率を70%とする。


月間売上 3,000円/人×3人/台×10台×2回転×3日/週×4週/月=2,160,000円

月間収益 2,160,000円×(1-70%)=648,000円

年間収益 648,000円×12ヶ月=7,776,000円


この年間収益から600万円は弁済に回すことができると考えられるため、5年で完済できる計画を前提として、3,000万円の創業資金で賄うことができると考えられます。


では3,000万円の創業資金で幾らまでの店舗付住居を買うことができるでしょう。対象不動産の現況を考えれば、創業時に必要な費用を以下のように見込みます。

  運転資金   500万円

  内外装修繕、設備費 1,000万円


特に外壁塗装と広告塔の改修は不可欠であり、競争力を維持するための設備改修も考えれば1,000万円程度の費用を見込むべきです。だとすれば対象不動産に出せる金額は以下のようになります。


  3,000万円-(500万円+1,000万円)=1,500万円


更地価格よりも高い金額が付くのは需要者が異なるからです。

居抜きで需要する人が高い効用を認めることが出来るから、購入額も高い金額を付けることが出来るわけです。


(3)用途変更を前提とする場合

用途変更で最も期待できるのはラーメン屋です。

国道沿いで通行量の多い立地ですのでラーメン店は繁盛するでしょう。

しかし致命的な問題として駐車場が狭すぎると言う点があります。

しかもラーメンの需要者は一人で来店し、単価は800円程度です。

時間回転数は多いですが、車での来店を前提とする限り、200坪では採算が合いません。


簡単に試算してみましょう。

・一日に駐車場10台分が5回転する。

・一人で来客、単価は800円。

・月30日営業し、年間360日稼動とする。

・店主給与を除く原価率を60%とする。


月間売上 800円/人×1人/台×10台×5回転×30日/月=1,200,000円

月間収益 1,200,000円×(1-60%)=480,000円

年間収益 480,000円×12ヶ月=5,760,000円


これでは年間に400万円程度しか弁済できませんので、5年間で2,000万円までしか創業資金を手当てできないことになりますので、改装費用を考えれば対象不動産を居抜きで購入して改装して使用する場合、改造費用を居ぬきの場合と同様としても


  2,000万円-(500万円+1,000万円)=500万円


となって、用途変更の場合の購入額は用途継続の場合より低くなってしまいます。


なおコンビニは用途変更では震災リスクの問題で不可能であり、他の用途はこの地域では困難です。


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以上の検討の結果、対象不動産の典型的需要者は「独立開業して焼肉店舗を経営しようと目論む若手事業者」であり、最有効使用は「現行店舗の継続使用」だと判断されました。

そしてその場合の価格は1,500万円であり、これが対象不動産の公売価格の上限であると言うのが結論となるのです。



このように不動産鑑定士の役割は、対象不動産の最有効使用の用途および典型的需要者を市場分析により明らかにし、その競争力の優劣を加味した収益力等を総合的に判定し、対象不動産の正常価格を求める役割を担うのです。




焼肉屋さんの話題なので、手持ちの焼肉の写真を載せて見ました。

トップ写真はもちろん「ねぎタン」からですよね。

そしてメインは「ざぶとんカルビ」

不思議なものでカルビって絶対に沢山は食べれないんですよね。

一番いっぱい食べれるのが赤身です。しかも塊で丁寧に炭火でじっくり焼いてから、切り分けて食べれば一番沢山食べれるのです。


焼肉屋さんも売り物を考えると、原価率を適切に維持してお客様に満足してもらえる品揃えが出来るのです。カルビばっかり食べさせたのではすぐに飽きられてしまい、お店に対する印象も悪くなります。


よく考えて店舗経営すること、

でも不動産の選び方も経営計画もなかなか分りませんよね。

そういう時に総合的に相談に乗れるのが不動産活用のプロである不動産鑑定士なんですよ。




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